オペアンプやAD変換、オーディオアンプといった回路では正負電源が必要になることが多々あります。そのような場合には方法として、昇圧コンバータ回路を使用する方法、仮想GNDを生成する方法(レールスプリッタ、オペアンプ)が考えられます。
仮想GNDを生成する方法では最大数mA~数10mA程度とあまり電流をとれません。一方、昇圧コンバータ回路を使用する方法では回路によって大電流をとれるものの、昇圧系部品のコストとスイッチングノイズが課題となります。MAU109といった絶縁型の昇圧コンバータは部品を減らして実装できますが、スイッチング周波数が100kHz前後とあまり高くありません。100ksps以上のAD変換用途やハイレゾオーディオ用途ではスイッチングノイズの影響を避けられません。電解コンデンサやインダクタ等のノイズフィルタが別途必要になります。スイッチング周波数を外部のノイズフィルタで除く場合、負荷変動によってノイズフィルタが十分機能しない場合があります。ノイズフィルタの他に昇圧させたあとにリニアレギュレータICでノイズリップルを除去するといった対策を行う場合もあります。
絶縁型ではありませんが、スイッチング周波数が高い2ch以上の昇圧回路を内蔵したスイッチングICを使用(例1、例2)して正負電源を生成するとスイッチング周波数によるノイズリップルの影響を低減させることができます。スイッチング周波数が1.2MHz前後と非常に高いため、インダクタ等でノイズ除去も容易です。ただ、問題点として2ch以上の昇圧回路を内蔵したスイッチングICは1個800円~1000円近くするものも多く、コストが課題となります。
そこでいろいろ調査すると1chの昇圧回路で正負の電源を生成する回路例がありました。AD変換ICのADAS3023の電源回路として紹介されており、1chの昇圧スイッチングICとしてADP1613が使用されています。ADP1613であれば200円前後で販売されており、2ch以上の昇圧回路を内蔵したスイッチングICに比べてコストが1/4以下です。当該回路の弱点として正側の電圧しかフィードバックしていないため、正負で偏った負荷を与えると電圧変動してしまう点とカップルインダクタが2つ必要な点があります。オペアンプやAD変換、オーディオアンプ用途であれば正負で偏ることは少なく、カップルインダクタのコストアップもスイッチングICのコストアップに比べれば小さいため、メリットは十分ありそうです。
AD変換IC ADAS3023データシートから抜粋(左側が正負昇圧回路)
1chの昇圧回路で正負の電源を生成回路を実際に実装してみました。
カップルインダクタのフットプリントpinアサインを間違えたため、ちょっと残念な実装になってしまいましたが、±15V前後の出力を確認することができました。正負対称電圧なら思いつかなくはないですが、1chの昇圧回路で正負の電源を生成するのはなかなか面白いと思いました。フットプリントpinアサインの修正とインダクタ、コンデンサのパラメータを調整してから基板公開や昇圧モジュールとしての販売を検討したいと思います。