今回は絶縁コンバータのノイズ対策について紹介します。絶縁コンバータは非絶縁コンバータに比べて、ノイズ対策に工夫が必要です。
非絶縁コンバータの場合、入出力でGNDが共通のため、主にディファレンシャルモードのノイズを考慮した設計が必要です。出力とGNDにコンデンサを並列に挿入したり、出力部にインダクタを直列に挿入することでディファレンシャルモードのノイズは容易に抑制することが可能です。なお、非絶縁コンバータの場合はコモンモードノイズはGNDや入出力を介してそのまま伝搬するため、入力段にコモンモードノイズフィルタを挿入して対策することが一般的です。
一方、絶縁コンバータの場合は当然ながら入出力でGNDが絶縁されているため、GNDが共通ではありません。GNDを入力と出力で分けることができるため、鉄道や自動車、産業用途などのノイズが多い環境下で多く使用されています。GNDが絶縁されているため、入力側のノイズを受けにくくなりますが、絶縁コンバータを使用すれば、ノイズの影響を受けない、ノイズが少ないという訳ではありません。絶縁コンバータに適切なノイズ対策をすることで絶縁によるノイズ抑制効果を発揮します。
絶縁コンバータに適切なノイズ対策とはコモンモードノイズ対策です。ディファレンシャルモードのノイズ対策は非絶縁コンバータ同様の対策で比較的容易に対策できますが、コモンモードノイズの対策はディファレンシャルモードのノイズに比べると容易ではありません。
絶縁コンバータは絶縁トランスを介して、入力側と出力側が接続されています。絶縁トランスが理想的にインダクタ成分のみであれば問題ありませんが、実際の絶縁トランスは入出力間に数10pF~100pF程度の静電容量を持っています。この静電容量と入力側のスイッチング(200kHz~1MHz程度)によってコモンモードノイズを発生させます。負荷や回路構成によって異なりますが、入力側のスイッチングが1MHz程度と高い場合であっても、コモンモードノイズに低い周波数(10k~100kHz程度)のピークが発生する場合があります。
コモンモードノイズは対象機器内部だけでクローズされた回路であれば、対象機器内部全体が揺れるため、比較的問題を受けにくい傾向があります。一方で信号を他の機器から受ける、他の機器へ信号を出すという場合には考慮が必要です。例えば、外部のセンサ信号を機器が受けて、増幅する場合にコモンモードノイズが影響します。外部のセンサ信号をアンプ(差動アンプでない)で増幅することで信号のインピーダンスとGNDのインピーダンスに差が生まれます。このインピーダンス差からコモンモードノイズがアンプ出力側にノイズとして表れることがあります。コモンモードノイズフィルタや差動アンプといった対策が必要です。電源系の至るところに様々な容量のコンデンサを追加してもノイズの現象が改善しないしない場合の多くはコモンモードノイズの影響が疑われます(それ以外は放射ノイズを受けている可能性がある)。外部のAC電源から入るノイズと切り分けをする場合は電池で駆動させてノイズを見ます。電池でもコモンモードノイズが発生する場合は絶縁コンバータがノイズ源か疑います。
このような絶縁コンバータによって生じるコモンモードノイズは下記のような対策で改善できる場合があります。回路設計や機器構成によってコモンモードノイズはノイズの出方や対策が異なるため、対策については参考に紹介します。
@絶縁入出力間のリターン回路
絶縁トランスの容量によって出力側に発生するコモンモードノイズに対して、リターン回路をつくることでコモンモードノイズを低減できます。具体的には入力側と出力側(もしくは基準となる端子)を数1000pFのコンデンサで接続させます。トランスの容量よりも同じor大きければコモンモードノイズ対策としては十分です。この容量を更に増やすと漏れ電流が大きくなり、ノイズ環境下で漏電ブレーカが頻繁に作動するといった不具合が発生します。この問題を防ぐため、数1000pF程度に抑える必要があります。また、コンデンサの耐圧は絶縁コンバータの絶縁耐圧に合わせた電圧を選定します。多くは1kV以上の耐圧を選択します。
絶縁入出力間のリターン回路は入力側のスイッチング素子がない方と出力側のダイオードがない方を結合させます。絶縁コンバータの内部構成が不明な場合は必要に応じて両側にリターン回路を実装します。リターン回路は絶縁コンバータに可能な限り近い場所に実装します。
Aコモンモードノイズフィルタ
絶縁入出力間のリターン回路の対策@ではコモンモードノイズのピークを抑えることができますが、全体的なコモンモードノイズを低減させるためにはコモンモードノイズフィルタを入出力の両側に実装します。片側のみの場合はコモンモードノイズがもう片方から出てしまうため、両側かつ絶縁コンバータから近い場所に実装することが理想的です。
コモンモードノイズは対策が難しく、発生源の特定も難しい場合が多々あります。ポイントはコモンモードノイズ対策が不十分な場合、絶縁コンバータ自体もコモンモードノイズの発生源になり得るということです。それらを踏まえた上で回路設計、ノイズ評価を行うとスムーズに対応できます。
posted by Crescent at 00:00|
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